ご挨拶

船ならではの特別な体験で「驚き」と「感動」を

　若き日に多くの地に赴き、人々と交流し、文化や歴史に触れることは、人生において特別な体験です。学園の創立者・松前重義博士も逓信省（当時）の若き技官として第二次世界大戦前にヨーロッパを訪ね、デンマークの国民高等学校をつぶさに見学し、自らの教育活動への理想を確固たるものとしました。

　現在は松前重義博士の時代とは異なり、国内外の移動はもはや一般的で、学生諸君の中にも幼少期から多くの旅行を体験している人も少なくないでしょう。旅行や遊学、そして留学のスタイルが多様化し、観光の枠を超えた体験型ツアーから手軽で安価なものまで、世の中はさまざまな旅で溢れています。

　このように旅の選択肢が広がる今日にあって、この研修航海は本学の建学の精神に則った、歴史と伝統という重みをもつ特別な教育プログラムであるといえるでしょう。それは第１回研修航海から52回目に至る今日まで、皆さんの先輩方が半世紀以上をかけて東海大学でしか経験することができない本研修を、脈々と受け継いできた熱き想いに裏打ちされています。また研修航海がスタートしてからの50数年の間、時代の流れや科学技術の発展は著しく、大きな環境の変化が起こっています。その中で皆さんは、敢えて「望星丸」で旅立つことを希望されました。このような特別な意味を持つ研修航海に、勇気をもって参加の決断をされた皆さんの行動に敬意を表したいと思います。

　ひとたび出航すれば逃げ場のない大海原で厳しい自然と向き合い、限られた居住空間でルールを遵守し、責任を負う集団生活に身を置く体験は、必ずやこれからの人生に有益なものとなるでしょう。私も学生時代に研修学生として、また東海大学に奉職してからは団役員として研修航海に参加しましたが、その体験は本当に貴重なものとなりました。

　旅が人生の糧となるのは、そこに「驚き」と「感動」があるからです。そして大切なことは、その驚きと感動から「何かを学び取ろう」という意識や姿勢を持ち続けることです。恩師や仲間と驚きや感動を共有し、濃密な時間を共にできることは、まさにこの研修航海ならではの特別な体験です。人々との交流、多様な文化との出会いを経て、皆さんがたくましく成長して帰港してくれることを心待ちにしております。